近年、少子高齢化による核家族化が進む中で、生活スタイルの多様化などの影響もあり供養やお墓に対する考えも人それぞれ様々な方法が行われるようになりました。
特にお墓を引き継ぐ後継者問題や、子供に負担をかけたくないなどのようなことから、「墓じまい」を検討する方も多いのではないでしょうか。
ここでは、墓じまいについて検討する際の相談先や、墓じまいで起こりやすいトラブルや未然に防ぐ方法などを解説します。
Contents
墓じまいとは
墓じまいとは、管理をお願いしている墓石やお墓の関連設備を全て解体撤去し、元の更地にして管理者に返還することを指します。
地域によっては「改葬」などとも呼ばれ、お墓の中に入れていた遺骨なども取り出して別のお墓に移動させたり、お墓を無くして別の供養方法で故人を供養するなどを行います。
墓じまいが増加した要因
厚生労働省のデータによると、2013年度の墓じまい件数が約8万件であったのが、2022年度の調査では2倍近くの約15万件に上がっています。
これは少子高齢化により、お墓の後継者が少なくなってきたことで、自身が元気なうちに墓じまいをしようという意識の変化や、コロナによりお墓に行きたくても行けない状態が続いたことにより、新たな供養方法の選択肢として墓じまいが増えたことが背景にあります。
墓じまいの相談は誰にする?
ご自身で墓じまいをすると決めた際には、墓じまいの意向を次のような方に相談しましょう。
まずは家族と親族に相談する
墓じまいはひとりだけの問題ではないので、家族や親族に墓じまいをするに至った経緯などを事前に相談しましょう。
お墓に関する思い入れはそれぞれ異なる想いがあるので、今後どのように管理していきたいかなど意見の食い違いはよくあるので正直な意見を出し合い話し合いましょう。
家族や親族全てが納得いく方向で取り進めるためにも、事前の相談は必ず必要です。
お墓があるお寺に相談する
墓じまいする際には、お墓を管理しているお寺に「埋葬証明書」を発行してもらう必要があります。
そのため、お寺に事前の説明無しにいきなり「墓じまいしますので埋葬証明書を発行して欲しい」などと墓じまいをする結果だけ伝えるなどすると、あまり気持ちのよいものではありません。
お墓によっては、先祖代々と何十年にも渡ってお寺が管理して受け継がれたものもあります。
今までお墓を見守ってくれた感謝の気持ちと共に、墓じまいに至る経緯の説明はきちんとおこなうとトラブルにならなくて良いでしょう。
墓じまいを実施する際の流れ
墓じまいの際には、事前に前述のような相談を行い、家族・親族など関係者の意向を取りまとめます。
家族・親族などの了承を得た後の流れは、以下のようになります。
①遺骨の新たな引っ越し先や供養方法を決める
家族や親族からの了承を得ることができたら、墓じまい後の引っ越し先や供養方法を決めます。
前述の相談で墓じまいのことを決める際に、墓じまい後の供養方法まで決めておくとスムーズに取り進めることができます。
新たなお墓に引っ越すのか、お墓を建てる以外の選択肢を利用するのかをよく話し合いましょう。
お墓での供養以外の選択肢としては、次のようなものがあります。
お墓の引っ越し以外の選択肢
墓じまい後には、様々な供養方法があり新たにお墓を設置しない供養もあります。
一般的には以下のような供養方法があります。
永代供養
永代供養は、霊園や寺院が遺族の代わりに遺骨の管理から供養を行ってくれます。
墓石や土地などを準備する必要がなく、遺骨の供養と管理を無期限で担ってもらえます。
永代供養は、お墓の後継者がいない場合などの墓じまい後に利用されます。
納骨堂
納骨堂は、シンプルに骨壷を納める安置施設になります。
ロッカー型や仏壇型など施設によって異なり、豊富な種類があります。
遺骨を納めて供養する場所としては、お墓と同様の施設と言えますが野外にないので家族親族以外の方がお参りしにくいなどの特性があります。
手元供養
手元供養は、自宅に遺骨を保管する方法です。
手元供養をする際には、先祖代々保管していた複数名の遺骨をそのまま保管する方法と、身近な家族のみ保管する方法があります。
また、全ての遺骨をそのまま保管すると置き場所に困るので、一部の遺骨や遺骨を粉骨にするなど加工してコンパクトに納めることもできます。
遺骨を加工して身につけられるようなアクセサリーにするのも、手元供養のひとつになります。
散骨
散骨は遺骨を粉骨にして自然に還していく供養方法です。
散骨の方法としては、海で行う海洋散骨と山で行う森林散骨の2つのパターンがあります。
生前に海や山が好きだった故人の意向にて行われることが多い供養方法となります。
お墓などは必要としないので、費用負担は少ない傾向です。
樹木葬
樹木葬は、墓石の代わりに木を植えてその下に遺骨を埋めて供養します。
自然回帰をしたい方や、大自然の中での供養を考えている方が利用されます。
散骨同様に、お墓は必要としません。
②お墓の解体業者の選定
供養の方法が決まったら、墓じまいの依頼を石材店に行います。
墓地や霊園によっては、出入りできる石材店が指定されていることがあるので事前に確認するとよいでしょう。
指定がない場合には、複数社見積もりをして価格を比較すると安心です。
③役所などで行政手続きをおこなう
墓じまいをするには、地域の役場で発行される「改葬許可証」が必要となり、新たなお墓の引っ越し先で提出します。
改葬許可証を発行して新たなお墓に引っ越す際には、以下の書類が事前に必要になります。
埋葬証明書
前述で解説しましたが、埋葬証明書はお墓の管理者に発行してもらう証明書で、故人の遺骨を埋葬していると確認できる書類です。
受入証明書
受入証明書は、新たなお墓の管理者から発行してもらう証明書で、遺骨の受入を許可したことを証明する書面です。
改葬許可申請書
現在お墓がある市区町村が発行するお墓の移動を許可する証明書です。
④閉眼供養をする
墓石に故人の魂を呼び込むことを開眼供養と言い、逆に墓石から魂を抜くことを閉眼供養といいます。
閉眼供養を行い、墓石から魂を抜いた後に解体作業を行います。
閉眼供養の法要を行う際には、お寺より僧侶を呼ぶ必要があります。
⑥お墓の解体、遺骨の取り出しをおこなう
閉眼作業が終わったら、②で選定した業者に依頼してお墓の解体作業を行います。
一般的には、閉眼作業をおこなった同日にそのまま解体作業を行います。
解体では、墓地を元通りの更地の状態に戻して返還する必要があります。
⑦引っ越し先のお墓に納骨と開眼供養をおこなう
新しい墓地に引っ越した場合には、引っ越し先の管理者に改葬許可証を提出します。
納骨作業の前には、新たに設置する墓石に開眼供養を行います。
墓じまいの際に起こりやすいトラブルと対処方法
先祖代々受け継がれてきたお墓は、家族や親族の他にも多くの方が関係しているので、墓じまいをすると多くのトラブルが発生することがあります。
起こりやすいトラブルと対処方法は次のようなものがあります。
起こりやすいトラブル | トラブル内容 | 未然に防ぐ対処方法 |
---|---|---|
親族や親族に墓じまいを反対される | ・お墓を取り壊すことに反対される ・事前に家族親族に墓じまいを相談しなくて揉める | 家族や親族間のトラブルの原因の多くは、相談を疎かにしたことで発生することが多々あります。 反対されても一方的に意見を押し付ける訳ではなく、相手の気持ちを受け止めた上で真摯に話し合いましょう。 管理ができないから墓じまいの必要があるなど、現状を理解してもらうことが大切です。 |
家族や親族と墓じまいの費用や、墓じまい後の費用負担で揉める | ・墓じまいの費用負担面で折り合いがつかない ・墓じまい後の供養費用の負担で喧嘩になる | 墓じまいをするには、規模感にもよりますが一般的に20万円〜100万円程度の費用が掛かると言われますが、この費用をどのように負担するか事前に相談しておく必要があります。 また、墓じまい後の供養方法によっては負担が大きくなる可能性もあるので、永代供養や散骨など比較的費用負担が少ない方法も検討すると良いでしょう。 |
お寺の理解を得られず関係が悪化する | ・お寺に相談せず墓じまいを進めて関係が悪化 ・寺院から墓じまいの手続きを拒否される ・檀家になっている寺院から高額な檀家料を請求される | 家族や親族同様に、お墓の管理をするお寺への説明相談も重要です。 祖父や曽祖父などから長年お墓を守ってくれていたケースが多いので、事前の相談なしに墓じまいを進めるのは御法度です。 墓じまいが必要になった経緯を、誠意を持って事前に相談するとトラブルを回避できます。 |
お墓の解体業者との金銭問題 | ・墓地の指定業者からの解体見積もりが相場よりも高額である ・悪徳業者による解体作業のせいで、後日不備が発覚する ・解体後に打ち合わせと違う費用請求がある | 墓じまいの金額は、一般的に何度も行うことではないので費用感が分かりにくいものです。 相場よりも高いのではと感じた際には、作業を進めるのではなく一旦保留して別の業者からの相見積もりをとるなどしましょう。 また、金額面だけで解体専門の業者を選ぶと、施工に不備や手抜きがある恐れがあります。 墓じまいでの解体は、信頼できる石材店などにお願いすると良いでしょう。 |
墓じまいでトラブルが起きた際には誰に相談する?
墓じまいをする際には、前述のように様々なトラブルが発生する可能性があります。
基本的には家族や親族に相談することで多くの問題は解決できますが、中には悪化しすぎてどうにもならない状態になることもあります。
そのような場合には、「国民生活センター」「消費生活センター」「弁護士」などに相談すると良いでしょう。
国民生活センターとは
国民生活センターとは、国民生活の安定や向上に寄与するため、総合的見地から消費者トラブルを解決することを目的として設立された国の中核的機関のことを指します。
墓じまいにおいて、自分で解決することが困難な状況になった場合に相談すると良いでしょう。
消費者センターとは
消費者センターとは、国民生活センターと同様に消費者トラブルが発生した際に相談できる窓口になります。
国民生活センターが国の機関であるのに対して、消費者センターは地方自治体が管理する機関となります。
両者は連携しているので、どちらのセンターに連絡しても同じように相談に乗ってもらえます。
弁護士に相談する手もある
トラブルが起きた場合には、弁護士に相談して法律の観点から解決に努める方法もあります。
国民生活センターや消費者センターへの相談は無料になりますが、弁護士に依頼すると思ったよりも高額な弁護士費用が発生することもあるので、十分に確認してから依頼するようにしましょう。
まとめ
墓じまいについて検討する際の相談先や、墓じまいで起こりやすいトラブルや未然に防ぐ方法などを解説しました。
少子高齢化が進む現代では、お墓の後継者問題や供養の方法も多様化しており様々な選択肢があります。
墓じまいもその選択肢のひとつになりますが、お墓は代々先祖を供養してきた場所なので勝手に墓じまいをしてしまうとトラブルの原因になります。
事前に家族や親族に相談して話し合うことで、多くのトラブルを防ぐことができます。
墓じまい後の供養方法も、永代供養や手元供養のほかにも散骨や樹木葬など故人の意向やお墓を管理する方の意向により複数の方法があります。
どのような方法がよいか迷われている場合には、ご家族への相談と共に専門の業者にいちど相談してみるのも良いかもしれません。